毎年、世界銀行が発表している各国の所得分類で、インドネシアが今年になって一つ階級が上がり、低・中所得国 (Lower Middle) から中・高所得国 (Upper Middle)に格上げとなりました (世界銀行のブログ)。
これは東南アジアの中でシンガポール・マレーシア・タイに次ぐ4番目にあたり、フィリピンやベトナムなどはまだ低・中所得国に分類されています(世界銀行のHP)。
そんないい機会なので、今回の記事では、所得にまつわるインドネシアのソーシャルクラスについて解説をしたいと思います。
ソーシャルクラスはインドネシアのマーケットの特性を理解する上で、大変重要なコンセプトです。特に事業家やマーケターの方にとっては、市場規模の推定や商品の価格設定に関わってくるので重要になってきます。
世界銀行がソーシャルクラスについて最新かつ網羅的なレポートを出していたのでこちらを参考にしつつ解説をしたいと思います。詳細は、以下のページよりレポートをダウンロードしてください。
Aspiring Indonesia: Expanding the Middle Class The World Bank
前提:インドネシアの一般的な統計情報
- まずはじめに、一般的なインドネシアの経済と人口情報は以下である。

- GDP : 1.119兆 USドル
- GDP年間成長率:5 %
- 一人当たりのGNI:4050 USドル
- 人口:2.73 億人
- 平均年齢:30.5歳
- 平均寿命:71.5歳
- まとめるとインドネシアは、東南アジアで最大の経済大国であり、国民の平均年齢も若く、高い成長率を誇り、今後も世界経済の中で重要な一国と言える。
インドネシアのソーシャルクラスとは
- ここから本題になるが、ソーシャルクラスは日本語だと社会階級と訳される。
- ここでいう社会階級とは、所得や消費を元にした経済的な分類を指す。
- 世界銀行のレポートでは、インドネシアのクラスは大きく5つの分類に分けられている。

- 貧困層 (Poor):月の消費額が、2,548円未満 (35.4万ルピア)
- 脆弱層 (Vulnerable):月の消費額が、2,548 ~ 3,830円 (35.4 ~ 53.2万ルピア)
- 準中間層 (Aspiring Middle Class):月の消費額が、3,830 ~ 8,639円 (53.2万 ~ 120万ルピア)
- 中間層 (Middle Class):月の消費額が、8,639円 ~ 43,196円 (120万 ~ 600万ルピア)
- 低・中間層 (Lower Middle):8,639円 ~ 23,038円 (120万 ~ 320万ルピア)
- 高・中間層 (Upper Middle):23,038円 ~ 43,196円 (320万 ~ 600万ルピア)
- 上流層 (Upper Class):月の消費額が43,196円を超える(600万ルピア)
- *1ルピア = 0.0072円で計算
- 世界銀行のレポートでは、中間層を更に2つのサブカテゴリーに分けている。
- これらの分類は、一番下の貧困層を中心に設計されている。
- 貧困層は、貧困線の人達、つまり、生活に必要な物資を購入できる収入を得ていない人を指す。
- 脆弱層は、翌年に貧困層になる可能性が10%を超える人達と定義される。
- 準中間層は、翌年に貧困層になる確率が10%未満、脆弱層になる確率が10%を超える人である。
- 中間層は、翌年に貧困層または脆弱層になる確率が10%以下の人である。
- 世界銀行は、中間層より下は経済的な余裕がなく、中間層になってはじめて経済的に安定すると説明している。
- レポート内では、貧困層はP、脆弱層はV、脆弱層はAMC、中間層はMC、低・中間層はMC1、高・中間層はMC2、上流層はUCと略されている。
各ソーシャルクラスの生活レベル
- 次に、各クラスの生活レベルを理解するために、家計の中での消費の内訳を見ていく。

- 2016年の消費の内訳を見てみると、どのクラスも家計の出費の大部分を食費(Food)と住宅費(House)が占めることがわかる。
- 貧困層(P)、脆弱層(V)、準中間層(AMC)は、概ね似たような内訳で、食事が消費の50%を上回り、さらに住宅費を抜くと、その他は最低限の出費に限られる。
- 中間層 (MC)になると、食費が消費の50%を下回り、娯楽(Entertainment)や冷蔵庫のような耐久消費財(Durables)に出費をする余裕が生まれる。
- 各クラスの違いをさらに特徴づけるのが上のグラフの車両費(Vehicles)と下のグラフの車両の所有率である。

- インドネシア人の大多数は、バイクを所有してるが、貧困層と脆弱層になるとほとんどが自動車を所有できていない。
- 一方、同じ中間層でも、低・中間層(MC 1)と高・中間層(MC 2)の間では大きな開きがある。
- MC2になると車両費(Vehicle)への出費が格段に上がり、所有率も低・中間層(MC 1)が20%、高・中間層(MC 2)が60%と明確な違いに現れている。
人口と経済に占める各クラスの割合
- インドネシアのソーシャルクラスの5分類のそれぞれがどういったものか分かったところで、次にインドネシア全体の中での各クラスの割合を人口と経済の観点から見ていく。
- まずは、2002年から2016年にかけての各クラスの人口の割合についてである。
- 全体の傾向として、脆弱層(V)と準中間層(AMC)が大部分を占め、年を追うごとに脆弱層(V)と貧困層(P)の割合が減り、中間層(MC)の割合が増えている。
- つまり、これは準中間層から中間層に、貧困層・脆弱層から準中間層への移行が進んでいるということを意味する。
- 5つのクラスの中で一番成長しているのは中間層(MC)であり、毎年10%の成長をとげ、2016年時点になると、全体の20%の5,200万人を占める。
- 2016年時点での、他のクラスの人口は、多い順に準中間層(AMC)が44%の1.14億人超、脆弱層(V)が24%の6,240万人、貧困層(P)が11%の2,860万人、上流層(UC)が1%未満の260万人弱となっている。
- 世界銀行によれば、実際の上流層の割合はもう少し多く、インドネシア中央銀行のデータと照らし合わせると1.42倍だと言われている。
- 次に、全体の消費額の中で各クラスが占める割合を2002年 ~ 2016年で見ていく。

- こちらのグラフもかなり特徴的である。
- 準中間層(AMC)と中間層(MC)が消費総額の大部分を占め、年を追うごとに脆弱層(V)の割合が減り、中間層(MC)の割合が増えていることが分かる。
- 実際、中間層(MC)の消費額の割合は、2002年時点でわずか22%だったが、年間12%で成長し、2016年時点で全体の47%、9.94兆円(1380兆ルピア)にまで到達した。
- その他のクラスの消費額の割合は、2002年から2016年にかけて、準中間層(AMC)が48%から38%、脆弱層(V)が22%から11%、貧困層(P)が8%から3%になった。
- これらのことはつまり、インドネシア全人口の64% (1.67億人)にあたる準中間層(AMC)と中間層(MC)の2つのクラスで、消費経済の85%を占めていること意味する。
- さらに、そのうちの人口20% (5,200万人)である中間層(MC)は、インドネシアの経済の約半分を占める。そして、中間層の人口と消費額は、それぞれ年間10%と12%と一番成長している。

都市と地方の格差
- 次に、インドネシアの経済の特徴を把握する上で重要な都市と地方の格差について各クラスの分布を交えつつ説明をする。
- インドネシアでは、都市部に経済が集中していると言われているが、これも経済の中心を担う中間層(MC)の人口割合を見れば一目瞭然である。

- 2016年度の人口は、都市部に1.32億人、地方に1.25億人と大体同じくらいの人の数が住んでいる。
- しかし、インドネシア経済の中核となる中間層(MC)については、都市部に4060万人と地方の3倍以上の人が住んでいる。
- 逆に、地方には貧困層(P)が多く、これらのことから都市部が豊かで、地方が貧しいということが分かる。
- さらに、インドネシアの都市部の各都市ごとの人口割合を見てみると、都市部の中間層の大多数がジャカルタ地区に住んでいることが分かる。

- 実は、ジャカルタには、都市部の中間層(MC)の34%にあたる1300万人の中間層が住んでいる。
- この数は地方に住んでいる全ての中間層人口と同数である。
- また、グラフの中にあるMC Rateは、その都市の人口における中間層(MC)の割合、AMC Rateは準中間層(AMC)の割合を示している。
- 東ジャワに位置する第二の商業都市スラバヤは、MC Rateがどこよりも一番高く、人口に対して高所得者層が多いと言える。
- 一方、メダンは4番目に人口は多いが、中間層(MC)の割合が低く、準中間層(AMC)の割合が高く、平均所得が低いことが分かる。
所感
- 以上、インドネシアのソーシャルクラスを分類、人口割合・消費額、都市と地方の格差の点で解説してきました。
- 重要な点として、インドネシアの経済は一面的ではなく、多面的であるということが挙げられます。
- 個人的な肌感覚としては、インドネシアは貧困層と脆弱層、準中間層と低・中間層、高・中間層と上流層の3つで、三重の経済構造になっていると感じます。
- それぞれの経済圏では、生活レベルが全く異なるのでお互いに交わり合うことはありません。食べている物、消費している物、教育や医療などアクセスできるサービスに違いがあります。
- これは日本だと、デフォルトで国民が高・中間層みたいな生活をしているので、あまりイメージが湧きづらいと思うのですが、インドネシアは同じ国内でも驚くほど違う生活をしている人達がいます。
- なので、起業家やマーケターはどのクラスに向けたサービスを提供するのかを意識する必要があります。インドネシア全土の2.7億人に適したサービスを提供するというのは、通信みたいな公共インフラでないと難しいです。
- 多くの事業者は、経済の中心である準中間層と中間層向けにサービスを提供し、一部の事業者が高・中間層と上流層をターゲットにしたハイエンドサービスを提供します。
- その中で、モノを展開するのであれば、都市部か地方かという選択になってくると思いますが、都市部は圧倒的に中間層人口が多い一方で競争激しいです。
- また、今回は説明にありませんでしたが、インドネシアのマーケットは20 ~ 30代の若者が消費の中核を担うので、全体的にLTV (顧客生涯価値)が高いと言えます。
- 最後に、スタートアップであれば市場規模の試算に、TAM、SAM、SOMなどを用いますが、インドネシアでSAMを計算する際に、一番重要なセグメント分けは、教育や宗教やジェンダーといった属性より所得クラスになります。
- 各クラスの消費額、財サービスへの消費の内訳、成長率を示しているので、SAMの計算もしやすいと思います。
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